福岡地方裁判所小倉支部 昭和60年(ワ)589号 判決
原告
向坊キヌエ
被告
浦部秀保
主文
一 被告は原告に対し金二二六万八二七〇円及びこれに対する昭和五八年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
一 被告は原告に対し、四九一万二、四二六円とこれに対する昭和五八年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行の宣言
(請求の趣旨に対する答弁)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
(請求の原因)
一 事故の発生
原告は、次の交通事故により後記の損害を被つた。
(一)発生日時 昭和五八年一月一〇日午後三時三〇分ころ
(二) 発生場所 北九州市八幡西区引野二丁目六番一号先路上
(三) 加害車 普通乗用車(北九州 五六 ま 七八六四)
右運転者 被告
(四) 事故状況 横断歩行中の原告を先行車を追い抜いた加害車が衝突したもの
二 責任原因
被告は自動車運転者として進路前方の交通の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠つて、漫然走行した過失があるので、民法七〇九条の責任を負う。
三 原告の損害
1 傷害の部位・程度
(一) 受傷
右上腕骨外科頸骨折、左恥骨・坐骨骨折、左腓骨小頭骨折
(二) 入・通院期間
北九州市八幡西区大字永犬丸一九一九の一正和中央病院にて、事故日である昭和五八年一月一〇日から同五月四日まで入通院治療を受け、その後同五九年二月一七日まで通院治療を受けて、そのころ症状が固定した。
(入院日数一一五日、実通院日数七九日、総治療日数四〇四日)
(三) 後遺症
(1) 腰部に常時コルセツトを要し、頑固な疼痛がある。(政令等級一二級一二号)
(2) 右肩から上肢にかけて疼痛がある(同一四級一〇号)
2 損害額
(一) 治療関係費 金八万七、五五〇円
(1) 治療費 金八万四、五五〇円
(2) 診断書代 金三、〇〇〇円
(二) 入院雑費 金一一万五、〇〇〇円
入院日数一一五日間、一日につき一、〇〇〇円として算出
(三) 通院費 金二万〇、五四〇円
実通院日数七九日につき、バス料金往復一三〇円×二として算出
(四) 休業損害 金二二〇万八、六六八円
原告は、明治四〇年一一月二四日生れの主婦で、事故当時七六歳であつたが、本件事故により事故日から昭和五九年二月一七日まで家事労働に従事することができなかつた。
そこで、その間の休業損害につき、昭和五八年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の六五歳以上の女子労働者の平均賃金(年間給与額)をもとに算出する。
1,995,600円×1/365×404日=2,208,668円
(五) 逸失利益 金九九万〇、六六八円
原告は、前記後遺症のため、その労働能力を一四%程度喪失している。
そこで、前叙の六五歳以上の女子労働者の平均給与額によつて算出する。
(年収) 一九六万五、六〇〇円
(継続年数) 四年
厚生省第一五回生命表によれば七七歳の女子の平均余命は九年であり、その二分の一の四年間を補償すべきである。
(対応するライプニツツ係数) 三・五四五九
1,995,600円×0.14×3.5459=990,668円
(六) 慰藉料 金三四〇万円
(1) 傷害分 金一六〇万円
傷害の部位・程度、入・通院期間などを考えれば、右金額が相当と思料する。
(2) 後遺障害分 金一八〇万円
前記後遺症を慰藉するには右金額が相当と思料する。
以上合計金六八二万二、四二六円
四 損害の填補額
原告は、被告から三万円、被告の付保する自賠責保険から仮渡金四〇万円、後遺障害保険金一四八万円の支払を受けたので、前記損害金に填補した。
五 結論
よつて、原告は被告に対し、残金四九一万二、四二六円と本件事故日である昭和五八年一月一〇日から支払ずみまでに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する答弁)
一 請求の原因一、二、四は認める。
二 同三、1については後遺症の事実は不知、その余は認める。同2は全て不知。
(抗弁)
一 本件道路は、自動車専用道路たる通称北九州道路に接続する道路で、その片側幅員は約一三メートル、道路中央部分の中央分離帯には植込みがあつて、自動車の通行は上、下線とも極めて頻繁な、主要幹線道路であり、事故現場から約七二メートルの地点には、横断歩道が設置されていて、横断歩行者は皆この横断歩道を利用して横断しており、本件事故現場で本件道路を横断歩行することは、極めて危険な状況にあるので、本件原告の如く漫然横断する歩行者は極めて稀である。
二 被告は、県道引野中間線から本件道路に直進で進入したものの、本件道路は片側三車線になつていて、第三車線(中央分離帯寄り)を進行していたが、自車左側の第二車線を先行中の車両を追い抜こうとした際、前方を進路左方から右方に向けて横断歩行中の原告を認め急制動の措置を講じたものの、衝突したものである。
三 この様な事故発生状況にてらすとき、被害者たる原告の過失が相当程度存するので大幅な過失相殺がなされるべきである。
(抗弁に対する答弁)
抗弁は全て争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録、証人等目録のとおり。
理由
一 事故の発生と責任原因
請求の原因一、二は当事者間に争いがないので、被告は民法七〇九条により後記原告の損害を賠償する責任がある。
二 本件事故の原告の過失の有無について
抗弁につき検討するに、成立に争いのない甲第九号証、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一四号証、乙第一号証、昭和六一年三月七日被告代理人弁護士高向幹範撮影の現場写真であることにつき争いがない乙第二ないし第六号証と原告本人尋問の結果及び被告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、抗弁一、二の各事実のほか、本件事故現場の状況は別紙見取図のとおりで、車運転者からみて横断者の存在を予測するのは困難な状況であること、原告は向い側のバス停留所に赴くべく、同図面北側歩道から西側を確認したところ、交差点から車二台が発進するのを見たが、安全と思い、小走りで横断にかかり、途中被告車の前部ではねられたことが認められ、被告本人尋問の結果中、左前方先行車の通過後に原告が飛び出してきた旨供述する部分は前掲各証拠に照らして措信できない。
右事故現場の道路状況、発生経緯をみれば、横断にかかつた原告にも事故発生につき二割の過失があると認めるのが相当であり、後記損害算定において斟酌する。
三 原告の損害
1 傷害の部位・程度
成立に争いのない甲第二ないし第五号証、第一三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号証と原告本人尋問の結果を総合すると、請求の原因三、1の(一)ないし(三)の各事実が認められ、これに反する証拠はない。
2 損害額
以下、右1の事実を踏まえて判断する。
(一) 治療関係費 八万七五五〇円
前掲甲第五号証、成立に争いのない甲第七号証、原告本人尋問の結果により原告主張のとおり認める。
(二) 入院雑費 一一万五〇〇〇円
原告主張のとおり認める。
(三) 通院費 二万五四〇円
原告本人尋問の結果により原告主張のとおり認める。
(四) 休業損害 一一〇万四四一四円
前掲甲第二号証、第一一号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は明治四〇年一一月二四日生まれで事故当時は無職であつたが、健康で、入院中の原告の夫を見舞い、身の廻り品をととのえるなどしていたことが認められるから、原告主張計算式につき年収額についてはその二分の一を計算基礎とするのが相当である。従つて次のとおりの額となる。
199万5600円×1/2×1/365×404(日)=110万4414円(円未満切捨)
(五) 逸失利益 四九万五三三三円
右(四)の事実を踏まえ、年収額について原告主張の二分の一を計算基礎とするのが相当である。
199万5600円×1/2×0.14×3.5459=49万5333円(円未満切捨)
(六) 慰藉料 合計三四〇万円
(1) 傷害分 一六〇万円
傷害の部位・程度、入・通院期間等を考慮すれば、一六〇万円が相当である。
(2) 後遺障害分 一八〇万円
前記後遺障害程度に照らし、右額を相当と認める。
(七) 右(一)ないし(六)の合計額は五二二万二八三七円となるから過失相殺として二割の一〇四万四五六七円(円未満切捨)を減ずると四一七万八二七〇円となる。
(八) 損害の填補
請求の原因四は当事者間に争いがないから、右(七)の額から争いのない合計一九一万円を差引くと残は二二六万八二七〇円である。
四 結論
よつて、被告は原告に対し、二二六万八二七〇円とこれに対する本件事故日である昭和五八年一月一〇日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告の本訴請求を右限度で認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 牧弘二)
別紙 〈省略〉